戸田奈津子氏のインタビュー絡みかTLでLOTRの「馳夫>韋駄天」問題が再燃しているようなので、当時関わっていた者としてこの場をお借りして説明させていただきます。連ツイになってしまいますがご容赦ください。
— ドートマンダー第二形態 (@dortmunder_k) 2017年1月4日
他の誤訳問題はさて置くとして、この「韋駄天」についての責任は戸田さんではなく吹替え版の制作担当だった私にあります。翻訳原稿のすり合わせ(字幕と吹替えの翻訳原稿を照らし合わせて齟齬がないかチェックする打ち合わせ)の席上で、私が考えて提案しました。
— ドートマンダー第二形態 (@dortmunder_k) 2017年1月4日
LOTRの場合、原作があまりに有名で多くのファンもいることから「瀬田貞二氏が翻訳した原作に極力準拠する」という方針はありました。しかし吹替え版を作るにあたってこの方針が壁となったのです。”Strider”(大股で歩く人)を吹替え版で何と翻訳するか。
— ドートマンダー第二形態 (@dortmunder_k) 2017年1月4日
御存知のように原作の瀬田氏は「馳夫」と訳しています。「馳せる」=「大股で歩く」ではないのでこれも多分に意訳の域だとは思いますが、「馳」という字で何となくイメージは伝わります。もし本作が字幕版のみの公開であればそのまま「馳夫」でよかったのですが、問題は吹替え版でした。
— ドートマンダー第二形態 (@dortmunder_k) 2017年1月4日
そこで自分が考えついたのが「韋駄天」でした。「人が速やかに移動する」状態を表す言葉で、「イダテン」なら音で聞いても字が浮かぶ(まあ多分に古い言葉ではありますが)、厳密には「大股」と「速い」は違うけどそれを言ったら「馳せる」だって意訳ですよね、と。
— ドートマンダー第二形態 (@dortmunder_k) 2017年1月4日
結局「音だけで意味が分かり」「人の呼称として違和感がなく」「大股歩きに類する言葉」が見つからず原語の「ストライダー」に戻したのですが、これはローカライズに携わる者としては敗北宣言でした。吹替え版を作っていると度々この「音の壁」にぶち当たります(チャック・イェーガーじゃないけど)
— ドートマンダー第二形態 (@dortmunder_k) 2017年1月4日
じゃあそれで、ということになり、吹替えの訳に字幕を合わせた結果が「韋駄天」だったのです。それが後に問題となり、後日台詞を「ストライダー」で録り直したのは皆さん周知の通り。つまりこの件は「文字情報である原作や字幕版」と「音声情報である吹替え版」の差異から生じたのです。
— ドートマンダー第二形態 (@dortmunder_k) 2017年1月4日
結局「音だけで意味が分かり」「人の呼称として違和感がなく」「大股歩きに類する言葉」が見つからず原語の「ストライダー」に戻したのですが、これはローカライズに携わる者としては敗北宣言でした。吹替え版を作っていると度々この「音の壁」にぶち当たります(チャック・イェーガーじゃないけど)
— ドートマンダー第二形態 (@dortmunder_k) 2017年1月4日
以上が「馳夫>韋駄天」問題の真相です。まあ言い訳ではありますが、本件が「戸田奈津子氏の誤訳」とされてしまうのは不本意なので説明した次第です。長文の連ツイ失礼いたしました。
— ドートマンダー第二形態 (@dortmunder_k) 2017年1月4日
色々あるんだなあ。
ロード・オブ・ザ・リングといえば、個人的には「つらぬき丸」のネーミングセンスの方がビックリだった(笑)
いやまあ、今となっては色々事情は思い当たることができるけど!(笑)